「わかること」と「できること」と「その間」

「わかってたのにできなかった」「解説を見ればわかるんですが」
これはよく子どもたちから聞く言葉です。

「やるべきことはわかってたのにできなかった」これは私たちが自分たちの授業を振り返ったときに出る言葉でもあります。これは「わかっている」のに「できる状態」になっていない典型例。今日は、勉強で言えば、ある問題や単元を「できる状態」にするまでのステップを書いてみます。私たち大人の仕事や習慣に置き換えてもそのまま当てはまることだと思います。

ある物事を「できるかどうか」においては、いまの自分の状態を認識し、次のステップにいくための適切な手段を取る必要があります。このときに、「自分の状態」と「やるべきこと」を認識していないと、取りうる手段を間違えてしまったり、手段が目的化してしまったりして、思ったように成長できないことが往々にしてあります。「努力しているのにできるようにならない…」という人がいたとしたら、それは努力の仕方が間違っている可能性が高い。もちろん、人生そんなに甘くないので、正しい方法をとっていてもすぐに成長できるわけではありません。努力が足りない可能性もあります。但し、明らかに努力をしているのに何かおかしいと思ったら、そもそもの方法論が間違っている可能性があります。

自分の状態を把握する

その問題ができなかった理由は何か?

例えば、計算問題を間違えた生徒がいるとします。解説を見直すと、「ああ!そういうことか、わかってたのに!凡ミスでした。」これはよくある振り返りです。でも、そこをもう一歩踏み込んで、それが本当に凡ミスか?よく振り返った方が良い。

なぜなら、
・100回やって、99回正解できる人の1回のミス

・100回やって、70回正解できる人の1回のミス
はまったく質が違うものであり、多くの場合、どちらも「凡ミス」と片付けてしまうことが多いからです。前者の「凡ミス」はある種仕方ない部分もありますが、後者は「凡ミスで片付けてはいけない凡ミス」だと思います。

何かができるようになるとき、大枠次のようなステップを踏んでいくと考えています。

①知らないことを知らない
②知っているけどわからない
③教えてもらえば(教科書を読めば)わかる
ー「わかる」と「答えがあればできる」の壁ー
④見ながらやればできる
ー「答えがあればできる」と「自分一人でできる」の壁ー
⑤思い出しながらやればできる
⑥ほぼ無意識にできる

①「知らないことを知らない」人へ

中1生の多くの子どもたちは、中3生で「因数分解」を習うことを知らないと思います。世の中に「因数分解」というものが存在することすら知らない。これが「知らないことを知らない」状態です。

学校の定期テストや受験は、学校の先生や塾から大枠が与えられるため、「知らないことを知らない」で困ることはほとんどないと思うので、ここはさらっと流します。これはどちらかというと、今後生きていく上で「知らないことを知らない」ことが世の中には山ほどあるという前提で、学び続けるマインドセットが重要ですね。

②「知っているけどわからない」人へ

「来週から因数分解始まりますよ」と先生が言った瞬間に「因数分解」を認識するけど、それがどういうものなのかわからない。もしくは、授業でやったんだけど、寝ちゃってて何がなんだかわからなかった。そういう状態です。

自分がこの状態であると認識したら、やるべきことは「わかる」ための行動です。教科書を読む、ググる、すららをやる、映像授業を見る、先生に聞く。

このときに重要なことは、自分が「何がわかっていて、何がわからないか」を明確にすること。例えば、因数分解で言えば、公式の意味がわからないのか、計算の仕方がわからないのか、どこまでわかっていて、どこからわからないのかをクリアにしないと効率良く学ぶことができません。暗記で考えるとわかりやすいのですが、例えば覚えるべき漢字10個を10分で覚えるとします。すでに「7個は覚えてる」とわかっていれば、10分で3個の漢字を何回も練習すれば良いのでかなり暗記の精度は高まるでしょう。一方で、「自分が何個覚えているかわからない」状態で、10分で10個の漢字を同じだけ勉強していたら、時間が足りなくなる可能性があります。

③「教えてもらえば(教科書を読めば)わかる」人へ

多くの人がここの状態で止まってしまいます。「授業を受けて理解できた」「先生に教えてもらって理解できた」「教科書を読んで理解できた」

だけど、改めて一人で問題を見直してみると手も足も出なくなる。

ここに、

ー「わかる」と「答えがあればできる」の壁ー

が存在します。

この段階であると認識したら、実際に行動すること。数学で言えば、問題演習をやることです。最初は教科書や解説を見ながらでも良いので、理解を確かめながら問題を解いてみる。解説を見ながらでも自分でできる状態を目指します。

自戒を込めてですが、私も「本を読んでわかった。」という状態で止まっていることは多いです、正直。まずは見ながらでも実践できるようにメモを取ったり、カレンダーに予定を入れたりして強制的に学んだことを行動に変える工夫をするようにしています。

④「見ながらやればできる」人へ

「答えを見ればわかるんですけど」「わかってたんですけど、テストではできなかった」もよく聞く声。次の段階としてやらなければならないのは、「思い出しながら、やればできる」練習をすることです。同じ問題で良いので、頭の中で解説を思い出しながら問題を解いていきます。思い出せなければ、解説をみてまた1からやり直す。その繰り返しをするしかありません。これが大変な作業なので、多くの人が別の問題に手を出したり、解説や先生を頼りすぎて、①〜④の段階を別の問題で繰り返したりしています。

なぜなら、

ー「わかる」と「答えがあればできる」の壁ー

の次に

ー「答えがあればできる」と「自分一人でできる」の壁ー

は、自力で乗り越えなければならない(本当の意味で自分の能力を鍛えなければならない)ので大変だから。ここを乗り越える覚悟を持ってやらないと時間の無駄になってしまいます。

この壁を乗り越えられない人の特徴として、2パターンあります。1つが、そもそもめんどくさがってやっていないパターン。この人たちは単純に時間を増やしましょう(笑)
そして、もう1つが「できるようになる」ことを目的として取り組んでいないパターンです。せっかく時間をかけているのにも関わらず、①〜④をただただ繰り返している。これは「やった気にはなれる」けれど、「一人でできる」ようになるまでの成長を遂げられない。こちらのタイプの人は、⑤〜⑥になる覚悟を持って勉強に取り組む必要があります。

斯くいう自分も、料理で何度も同じことを繰り返しています。(そして挫折しました笑)
「クックパッドを見てできる」から、「見ないでできる」までの挑戦をせず、別の料理に手をつけたり、オイシックスのパッケージに切り替えたり。肉じゃがの作り方?大体「わかる」んですけど作れと言われたら、クックパッドや誰かの支援なしには作れない。これは紛れもなく、「自分一人でできるようになること」から逃げている一例です。大変だから。「自分一人でできる」ようになるには何度もクックパッド(解説)をみながら作って、頭の中にやり方を叩き込んでいき、少しずつ見ないで作れる状態にしていかないと、「自分一人でできる」にはならないわけです。

自転車と同じですよね。子どもも大人も、何度も転ぶのをどんどんめんどくさがるようになって、いつまでも補助輪に頼ってしまっているのです。

この「答えがあればできる」と「自分一人でできる」の壁を乗り越えない限り、勉強も料理も一人でできるようにはなりません。ここは本当に大変なので、「動機」が必要になってくる部分だと考えています。①〜④の状態は正直受け身でもできる楽な勉強なので、学校でも塾でも言っていれば成り立ちますが、ここからは主体的に行動する必要があるからです。C.schoolが、「すらら」や「映像授業」を取り入れている理由は、IT教材の進化に伴い、①〜④はIT教材で代替しやすくなっているので(それでも足りない部分があるので教えています)、この「自分一人でできる」の壁を乗り越えられる働きかけに力を入れたいと思っているからです。その取り組みとして勉強の仕方、勉強計画、面談に注力しているのです。

⑤「思い出しながらやればできる」人へ

この段階は、100問中80問程度ができるイメージ。大体の問題は、考えながらできるようになっている。しかし、この状態でやめたら70~80点止まり。ここから無意識にできるレベルになるまで繰り返し問題演習を繰り返す必要があります。問題を見た瞬間に答えが頭の中に浮かぶような状態です。

スポーツに例えるとわかりやすいですが、どんなスポーツであれ、プロの選手はほぼ無意識にうまくいく身体の動かし方をしているでしょう。サッカー選手は頭の中で、「次は右足を動かして、この場合は右サイドによって…」など考えていないと思います。野球で言えば、練習のときはもっと脇を畳んでバットを振った方が良さそうだとか、改善するために頭で考えながら練習しても、本番までには無意識でその動きができるように何度も何度も練習をして臨むと思います。

勉強もまったく同じ。これは成績が4の子と5の子の差として見えやすい。ある程度、勉強して点数が80点前後になってきた。でも、いつも90点にわずかに届かない。これは練習不足です。「100発100中できる」と自信を持って言えるまで練習をしていない。特に、問題集の応用問題のようなちょっと難しい問題を「見ながらやればできる」とか「思い出しながらやればできる」レベルでやめてしまっている。(いつもこの段階で止まってしまっているケースとして、時間が足りなくなってしまっていることも多いので、その場合は早く試験勉強を始めた方が良いです。)大変な問題も「ほぼ無意識でできるレベル」まで徹底できてこそ、高得点が取れるようになります。

⑥ほぼ無意識にできる

試験範囲の問題集や受験で言えば過去問・問題集のすべての問題が、見た瞬間に解法が浮かぶようになった。この状態になると「ほぼ無意識にできる」と言える状態です。成績表で5を取る子や都立の入試で上位校を目指すレベルの子たちは、ほぼこの状態になっています。そして、この状態になって初めてやるべきことが、別の問題に手をつけていくことです。そうして今まで身につけてきたパターンを別の問題に応用させていきます。既にパターンが頭の中に染み付いているので、別の問題もできる、もしくは、できなくても解説を見ればすぐにわかる状態になっています。新しく手をつけたその問題を無意識にできるまで持っていくにも、パターンが頭に叩き込まれているので、そこまで時間はかかりません。こう考えると、問題はいくらでもあるので、「試験勉強が終わった」ということはほとんど起きないと思います。

「試験勉強終わった」と思った場合、自分が①〜⑥のどの状態で「終わったのか」を認識してみると、まだまだできることがあるはずです。

中学生、高校生のみんな、いまは大変でもやって後悔することは絶対ないので、まずは守破離の守だと思って「無意識にできるレベル」を目指してやり切ってみてほしいですね。
そして、私たち大人も子どもに言うだけでなく、どんどん「自分一人でできること」を増やす努力をして、子どもたちのお手本になれるようにがんばりたいと思います。